進捗は「できた」に変わるのに、実力は変わっていない
多くの問題集は、正解した問題に印を付けます。復習アプリなら「次は3日後」「次は1週間後」と間隔が伸びていきます。
この判定は、すべて「問題」の単位です。
でも本番に出るのは、その問題ではありません。同じ論点を、違う言い回しで、違う選択肢と一緒に聞かれます。「その問題に正解できる」と「その論点を分かっている」は、別のことです。
そして厄介なことに、この2つは本人からは同じに見えます。どちらの状態でも、問題集の進捗は同じように増えます。
解いた問題から、別の問題へは、どれくらい効くのか
ここを正面から測った研究があります。Pan と Rickard が2018年に Psychological Bulletin に出した、転移(transfer)についての初めての包括的なメタ分析です。
規模はこうです。40年分の研究から、67本の論文・122の実験・192の効果量を集め、参加者は合計10,396人。
結論は3つに分かれます。
① 転移はする
練習テストで学んだことは、別の問題にもちゃんと効きます。再度読み直す条件と比べて d = 0.40(95%信頼区間 0.31〜0.50)。これははっきりした効果です。
② ただし、効き方に偏りがある
論文は、転移が強い場面と弱い場面をはっきり分けています。
| 転移が強い | 転移が弱い |
|---|---|
| 出題形式が変わったとき | 刺激と応答を並べ替えた問題 |
| 応用・推論を求める問題 | 学習時に見たが、テストはしなかった範囲 |
| 医療の診断のような問題 | 解答例を追う形式の問題 |
「学習時に見たが、テストはしなかった範囲」に弱い、というのが効きます。読んだだけの所は、隣の問題を解いても埋まりません。
③ 補正すると、転移がゼロと出ることもある
ここが一番大事です。著者らは出版バイアスの検証を2通り行いました。その結果、効果の大きさを左右する条件(回答の一致度、解説つきの練習、最初のテストの出来)がどれも揃っていない場合には、転移がゼロと出ることが多いと報告しています。
つまり、「1問解いたから、その論点は取れた」は、研究が言っていることより強い主張です。
解くこと自体は、やめなくていい
誤解のないように書いておきます。問題を解くのは正しい。
Butler の2010年の研究は、繰り返しテストを受ける条件と繰り返し読む条件を比べ、1週間後に3通りの最終テストをしました——同じ問題/同じ分野の新しい推論問題/別の分野の新しい推論問題。
どの場合でも、テストを繰り返したほうが良い成績でした。別分野への転移でさえそうです。
だから結論は「解くな」ではありません。足りないのは回数ではなく、確かめ方のほうです。
1問正解を「取った」と数えない
論点(シラバスの語)を単位にすると、状態が4つに割れます。
| 状態 | 意味 | やること |
|---|---|---|
| 2問以上で取れている | 本物 | 触らない |
| 1問だけ当たった | 未検証。答えを覚えただけかもしれない | 同じ語の別の問題を1問解く |
| 別の問題で落とした | ⚠️ 覚えていたのは論点ではなく問題のほう | ここを最優先で潰す |
| 問題が1問しかない | 確かめようがない | 正直に「不明」として扱う |
「2問目」は、1問目の直後に出しても意味がありません。記憶に残っているうちに解けば当たります。日をまたいで、忘れかけた頃に別の問題で聞いて初めて、論点として残っているかが分かります。
このサイトでの数え方
このサイトの問題は、1問ずつ公式シラバスのキーワードに紐づけてあります。だから語の単位で数え直せます。
| 問題数 / 語数 | 同じ語の別問題を出せる問題 | |
|---|---|---|
| 生成AIパスポート | 537問 / 280語 | 515問(96%) |
| G検定 | 467問 / 481語 | 416問(89%) |
⚠️ ただしG検定は、481語のうち150語に問題が1問しかありません。「シラバスの490語すべてに1問以上ある」という作り方の裏返しです。この語は確かめようがないので、「取れた」側には数えず、別枠で表示しています。都合の良いほうに寄せると、この機能自体が嘘になるからです。
問題集が1冊しかなくても、できること
このサイトを使わなくても、考え方は持ち帰れます。
- 同じ論点の問題を、別の本や別の年度から1問探して解く。同じ問題を2回解くより、ずっと情報量が多い
- 選択肢を隠して、問いだけを読んで答える。選択肢は思い出す手がかりになるので、隠すと「本当に取り出せるか」が分かります
- 正解した直後に「なぜ他の3つは違うのか」を口に出す。言えなければ、まだ論点は取れていません
いずれも「1問正解した」を、そのまま信じないための手続きです。
参考にした研究
- Pan, S. C., & Rickard, T. C. (2018). Transfer of test-enhanced learning: Meta-analytic review and synthesis. Psychological Bulletin, 144(7), 710–756. 著者公開の原稿(PDF)
- Butler, A. C. (2010). Repeated testing produces superior transfer of learning relative to repeated studying. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 36(5), 1118–1133. 全文(PDF)
- Rohrer, D., Dedrick, R. F., & Burgess, K. (2014). The benefit of interleaved mathematics practice is not limited to superficially similar kinds of problems. Psychonomic Bulletin & Review, 22(5), 1323–1330. 論文情報(DOI)