「続かない」を2つに分ける——始められないのか、難しさが合っていないのか

勉強法

「続かない」と一言で言いますが、中身は2つあります。机に向かうまでが重いのか、開いたあとが苦しい(または退屈な)のか。この2つは、打つ手がまったく違います。

まず、2つに分ける

  • ① 始められない。やる気はある。でも机に向かうまでが重い
  • ② 開いたあとが続かない。易しすぎて退屈か、難しすぎて苦しい

①に効く手は②には効きませんし、逆も同じです。自分がどちらなのかを先に決めるのが、いちばん短い道になります。

① 始められない → 「いつ・どこで」を先に決める

やる気を増やそうとするより、きっかけを1つ決めておくほうが効きます。

Gollwitzer と Sheeran が2006年にまとめたメタ分析は、94の独立した検証を集めて、この手法の効果量を d = 0.65(中〜大)と報告しています。心理学の介入としては大きい部類です。

形は決まっています。

状況Yに出会ったら、行動Xを始める

「やる気を出す」でも「毎日がんばる」でもなく、具体的な合図と、そのとき始める行動を、先に言葉にしておくだけです。

✗ 効きにくい○ 効きやすい
毎日1時間やる電車に乗ったら、3問解く
時間があったら復習する夕食の皿を洗い終えたら、今日やる分を開く
今週中に第4章を終える朝、コーヒーを淹れたら、5問だけ解く

左はいつ始めるかが決まっていません。右は合図がはっきりしていて、その場になれば考えずに始まります。

量は小さくして構いません。この手法が効くのは「たくさんやる」ことではなく、始まることに対してです。3問でも、始まらなければゼロです。

② 難しさが合っていない → 正答率85%あたりを狙う

易しすぎる問題ばかり解いていると、退屈なうえに学びも少ない。難しすぎると、苦しいうえに間違いから拾えるものも減る。間にちょうどいい点がある、というのは直感どおりですが、その点が数字で示されています。

Wilson らが2019年に Nature Communications に出した研究は、勾配降下にもとづく広い範囲の学習の仕組みについて、最適な誤答率は約15.87%、つまり正答率にして約85%だと導きました。ここが学習がいちばん速く進む点です。

⚠️ 正直に書いておきます。この研究が示したのは、人工ニューラルネットワークと、動物の学習を説明するとされる神経回路のモデルについてです。「資格試験の勉強で85%が最適」と人間で実証されたわけではありません。

それでも使う価値があると考えています。「簡単すぎても難しすぎても遅くなる山がある」という主張自体が、直感より強いからです。そして実務上の指針としては十分に具体的です。

  • 正答率が95%を超えている → その範囲はもう終わっています。難しくするか、別の範囲へ
  • 正答率が60%を切っている → 難しすぎます。易しい問題を混ぜて土台から
  • 85%前後 → いまの難しさが合っています

なお、いちばん気持ちいい難しさは、いちばん学べる難しさとは別です。達成動機づけの古典的な理論(Atkinson, 1957)では、成功の誇りが最大になるのは成功率50%前後とされます。成功の価値は成功確率の裏返しで、易しい課題の成功には価値がないからです。

だから、普段は85%、節目に50%。この2階建てが妥当だと考えています。

③ ポイントやバッジは、続ける力にはなりにくい

「ゲームっぽくすれば続く」はよく言われますが、研究の結論はもう少し冷たいものです。

Sailer と Homner が2020年に発表したメタ分析は、ゲーミフィケーションの効果を3つに分けて測りました。

何への効果か効果量厳密な研究だけに絞ると
認知的な成果(理解・成績)g = 0.49安定していた
動機づけg = 0.36不安定
行動g = 0.25不安定

⚠️ 「モチベーション維持のために入れる」は、研究上いちばん当てが外れやすい狙いだということです。

さらに設計に直結する結論があります。報酬とステータスの仕掛け(ポイント・バッジ・ランキング)だけでは効果が小さく、挑戦・意味のある目標・物語を組み込んだ設計のほうが効いた。

つまり、ポイントを配っても続きません。ちょうどいい難しさを用意するほうが効きます。

このサイトでどうしているか

  • 今日の一手 ——トップに、if-thenを1行だけ書けます。翌日に「できた/できなかった」を1タップ
  • 難度と今日の1本 ——あなたの記録から、正答率85%前後になるように12問を組みます。取れた語が増えるほど、85%を保つために問題は自動的に難しくなります
  • 挑戦 ——節目に、重い側から組んだ20問

そして、ポイント・コイン・レベル・ランキング・連続日数は作っていません。上のメタ分析が「効果が小さい」と名指ししたのが、まさにそれらだからです。

連続日数だけは補足します。引きは強いのですが、1問だけ解いて連続を守る行動を誘発します。このサイトは「正答率のような数は嘘をつく」と書いている側なので、いちばん嘘をつきやすい数を看板にはできません。代わりに、途切れても壊れない形(この4週間で何日やったか)にしています。

参考にした研究

  • Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119. 論文情報(KOPS)
  • Wilson, R. C., Shenhav, A., Straccia, M., & Cohen, J. D. (2019). The Eighty Five Percent Rule for optimal learning. Nature Communications, 10, 4646. 全文(オープンアクセス)
  • Sailer, M., & Homner, L. (2020). The gamification of learning: A meta-analysis. Educational Psychology Review, 32(1), 77–112. 論文情報(ERIC)
  • Atkinson, J. W. (1957). Motivational determinants of risk-taking behavior. Psychological Review, 64(6), 359–372.

この記事の方法を、このサイトでそのままやる

このサイトには、始めるための「今日の一手」と、難しさを合わせる「今日の1本」を置いてあります。どちらも下の研究にそのまま対応しています。

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